ギャファー
ぎゃふぁー
ギャファーとは
ギャファー(Gaffer)は、映画やテレビの撮影現場における照明部門の最高責任者を指す。正式な肩書きは「チーフライティングテクニシャン(Chief Lighting Technician)」だが、業界ではほぼ例外なく「ギャファー」と呼ばれる。
ギャファーは撮影監督(DP / Director of Photography)の右腕として、監督や撮影監督が求める映像のルックを照明技術で実現する。どの照明器具をどこに配置し、どの強さ・色温度で発光させるかを判断し、照明チーム全体を統括する。
語源
「ギャファー」の語源にはいくつかの説があるが、最も広く知られているのはイギリス英語で「年長者」「親方」を意味する “gaffer” に由来するという説である。映画産業の初期、撮影スタジオの天井に設置された照明を操作するためにフック付きの長い棒(gaff)を使っていたことから、その棒を扱う人を「ギャファー」と呼ぶようになったという説もある。
ギャファーの具体的な仕事
プリプロダクション
撮影前に撮影監督と打ち合わせを行い、各シーンの照明プランを作成する。ロケハン(ロケーション・ハンティング)にも同行し、自然光の方向や電源の確保状況を確認する。必要な照明機材のリストを作成し、レンタル手配を行うのもギャファーの仕事だ。
撮影現場
各シーンの照明セットアップを指揮する。撮影監督が「この場面は窓からの柔らかい逆光で」と指示すれば、その光を実現するために最適な機材の選定、配置、ディフュージョン(光の拡散)の方法を決定する。大規模な撮影では数十台のライトを管理することもあり、効率的なセットアップと撤収の段取りが求められる。
電源管理
ロケ撮影では電力の確保も重要な責務である。発電機の手配と管理、電気回路の安全確認、ブレーカー容量の確認など、電気工事に関する専門知識が必要とされる。アメリカでは撮影現場の電気工事に関する資格が求められることもある。
ベストボーイとの関係
ギャファーの直下で働く「ナンバー2」がベストボーイ(Best Boy)である。正式には「ベストボーイ・エレクトリック(Best Boy Electric)」と呼ばれ、照明チームの機材管理、人員の手配、予算管理などの実務面を担当する。
ギャファーが「何をするか」を決める創造的・技術的な判断者なら、ベストボーイは「どうやるか」を管理する実務的な責任者という分担になっている。
具体的な作品での貢献
ロジャー・ディーキンスとの協業
撮影監督ロジャー・ディーキンスの長年のギャファーであるアンディ・ウィルソンは、『1917 命をかけた伝令』(2019年)で「全編ワンカット風」の撮影を照明面から支えた。カメラが途切れなく移動し続ける中で、自然に見える照明を維持するため、ライトの配置と切り替えを秒単位で計算し実行した。この作品のシームレスな照明設計は、ギャファーの仕事の極致といえる。
『ブレードランナー 2049』
ディーキンスがアカデミー賞撮影賞を受賞した本作でも、ギャファーの貢献は絶大だった。廃墟のラスベガスをオレンジ一色に染めるシーンでは、巨大なライトリグで空間全体を均一に照らしながらも、奥行きと立体感を失わない高度な照明設計が施されている。
日本の照明技師
日本の映画・テレビ業界では、ギャファーに相当する役職を「照明技師」または「照明部チーフ」と呼ぶ。照明技師の木村太郎は、是枝裕和監督の『万引き家族』や『怪物』で自然光に近い繊細な照明を実現し、作品の持つリアリティを照明面から支えた。
グリップとの違い
撮影現場で照明部門と混同されやすいのが「グリップ」部門である。
- ギャファー(照明部): ライトそのものを操作する。光の強さ、色、方向を管理
- キーグリップ(グリップ部): ライトを遮る・拡散するための器具(フラッグ、ディフューザー、リフレクター等)や、カメラの移動機材(ドリー、クレーン等)を管理
簡単にいえば、ギャファーは「光を作る」仕事、グリップは「光を形作る」仕事と「カメラを動かす」仕事を担当する。両部門は密接に連携しており、良い映像は両者のチームワークなしには生まれない。
キャリアパス
ギャファーになるための決まったルートはないが、一般的には照明助手としてキャリアを始め、経験を積んでベストボーイに昇格し、さらに実績を重ねてギャファーになるのが典型的な道筋である。電気の専門知識はもちろん、撮影監督の意図を汲み取る感性と、大人数のチームを効率よく動かすマネジメント能力が求められる。