ターンアラウンド
たーんあらうんど
ターンアラウンドとは
ターンアラウンド(Turnaround)とは、映画スタジオが開発中の企画に対して「これ以上投資しない」と判断し、その企画の権利を他のスタジオやプロデューサーが取得できる状態にする業界慣行を指す。
スタジオはある企画の脚本開発やオプション契約に資金を投じてきたが、何らかの理由で製作を断念する。このとき企画は「ターンアラウンドに入った」と表現される。別のスタジオがこの企画を引き取る場合、通常は元のスタジオが投じた開発費用を補填する形で権利を買い取る。
ターンアラウンドが発生する理由
スタジオの方針転換
経営陣の交代やスタジオ全体の製作方針の変更により、それまで開発していたジャンルや規模の作品が優先事項から外れることがある。新しいスタジオヘッドが就任すると「前任者の企画」を整理するのはハリウッドの常であり、大量のターンアラウンドが発生する。
予算超過の見込み
開発を進めるうちに、想定以上の製作費がかかると判明した場合。特にVFX多用の大作やロケーション撮影が必要な企画は、見積もりの段階で二の足を踏むスタジオが出やすい。
市場環境の変化
類似のテーマを扱った競合作品の失敗や、観客の嗜好の変化により、商業的な見通しが悪化した場合。たとえば、あるジャンルの大作が興行的に失敗すると、同ジャンルの開発中の企画が一斉にターンアラウンドに入ることがある。
キーパーソンの離脱
企画のカギを握る監督やスター俳優がプロジェクトを離脱し、スタジオが企画の魅力を維持できないと判断した場合。
具体的な作品の事例
『E.T.』
映画史上最も有名なターンアラウンド事例の1つ。スティーヴン・スピルバーグの『E.T.』は当初コロンビア・ピクチャーズで開発されていたが、同社が企画を手放した。ユニバーサル・ピクチャーズがこれを引き取り、1982年に公開。当時の歴代興行収入記録を塗り替える大ヒットとなった。コロンビアにとっては「逃した魚は大きかった」の典型例として語り継がれている。
『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』
ディズニーのテーマパークを映画化するというコンセプトは当初懐疑的に見られていた。ディズニー社内でも一度は製作が危ぶまれたが、ジェリー・ブラッカイマーとジョニー・デップの参加で実現。完全にターンアラウンドには至らなかった例だが、社内での「死にかけた企画」が復活して巨大フランチャイズになった点で、ターンアラウンド的な力学が働いている。
『ボヘミアン・ラプソディ』
フレディ・マーキュリーの伝記映画は、長年にわたり複数のスタジオやプロデューサーの間を渡り歩いた。監督やキャストの交代を繰り返しながら最終的に20世紀フォックスで完成し、2018年に公開。世界興行収入9億ドルを超え、主演のラミ・マレックがアカデミー賞主演男優賞を受賞した。
ターンアラウンド条項の仕組み
ターンアラウンドは単なる慣行ではなく、脚本家やプロデューサーとの契約に「ターンアラウンド条項」として明文化されていることが多い。
- ターンアラウンド期間: スタジオが企画をターンアラウンドに入れてから、関係者(脚本家やプロデューサー)が他のスタジオに持ち込める期間。通常18〜24ヶ月
- 買い戻し費用: 新しいスタジオが支払う金額。元のスタジオが投じた開発費(脚本料、オプション料、リサーチ費など)に利息を加えた額が一般的
- 脚本家の保護: WGA(全米脚本家組合)の規約では、スタジオが一定期間内に製作を開始しない場合、脚本家がターンアラウンドを要求できる権利が定められている
デベロップメント・ヘルとの関係
ターンアラウンドは、デベロップメント・ヘル(開発地獄)からの脱出口として機能する。企画がスタジオ内で何年も停滞しているとき、ターンアラウンドによって別のスタジオに移ることで、新しい視点や推進力を得て製作に至るケースがある。
逆に、ターンアラウンドに入った企画がどのスタジオにも引き取られず、そのまま消滅するケースも多い。ターンアラウンドは「再生のチャンス」であると同時に「企画の墓場」でもありうる。
日本の映像業界での類似概念
日本の映画制作システムはハリウッドのスタジオシステムとは構造が異なるため、「ターンアラウンド」という概念がそのまま当てはまることは少ない。ただし、製作委員会方式において出資社が撤退したり、テレビ局の映画枠の見直しで企画が宙に浮いたりする状況は、ターンアラウンドに近い力学といえる。