二次使用料
にじしようりょう
二次使用料とは
二次使用料(にじしようりょう、Secondary Use Rights / Secondary Rights)は、映画やテレビ番組が当初の用途(テレビ放送、劇場公開)を超えて再利用される際に発生する追加報酬の総称である。具体的には以下のような利用に対して、出演者・脚本家・原作者・音楽著作権者などに支払われる「再使用料」「再利用料」を指す。
- 番組の再放送
- 配信プラットフォーム(Netflix・Amazon Prime Video等)でのストリーミング
- DVD/Blu-rayパッケージ商品の販売・レンタル
- 海外への販売・配信
- 楽曲・効果音の他作品での使用
アメリカの「Residuals(レジデュアル)」に相当する概念だが、日本では組合の交渉力が弱いため、体系的な制度として確立されていない部分が多い。
二次使用料が必要となる理由
創作物の長期的価値
映像作品は劇場公開や初回放送で終わるのではなく、その後何十年にもわたって再利用される。1980年代のヒット作が今もテレビで再放送され、配信プラットフォームのカタログに含まれ、海外でも視聴される。これらすべての場面で作品から収益が生まれ続ける。
クリエイター(出演者・脚本家・原作者・音楽家)が当初の出演料・原稿料・楽曲使用料のみで一括清算されると、作品の長期的価値からクリエイター本人が利益を受け取れない構造になる。二次使用料は、この問題を是正するための制度である。
プロジェクト型労働のセーフティネット
映像制作は「プロジェクト型」の仕事であり、一つの作品が終われば次の仕事があるかは不確定である。二次使用料は、プロジェクト間の「空白期間」にクリエイターの生活を支えるセーフティネットとして機能する。
二次使用料の主な種類
テレビ番組の再放送
地上波・BS・CSで番組が再放送される際に、出演者・脚本家に支払われる。日本俳優連合(日俳連)と各放送局の協定により、再放送ごとに一定額が支払われる仕組みが整備されている。
ただし、再放送ごとの単価はアメリカのレジデュアルと比較して低く、人気番組であっても俳優への分配は限定的である。『フレンズ』の主演6人が毎年約2,000万ドルのレジデュアルを受け取るのに対し、日本の人気ドラマの俳優は再放送による継続収入をほとんど得られないケースが多い。
配信プラットフォームでの再利用
Netflix、Amazon Prime Video、Disney+などのSVODに既存の映画・ドラマがライセンスされる際、二次使用料が発生する。日本の場合、契約は製作委員会単位で行われ、出資者間で分配されることが多い。出演者個人への配分は契約に明記されていないケースもある。
配信プラットフォームの視聴データが非公開のため、「どれだけ視聴されたか」と二次使用料が連動しない構造的問題がある。
DVD/Blu-rayパッケージ販売
物理メディアの販売・レンタル時に発生する。出演者には日俳連の規定に基づく一定額が支払われる。ただし2010年代以降、DVD/Blu-ray市場は急速に縮小しており、二次使用料収入としての重要性は低下している。
海外への販売・配信
日本の作品が海外(米国・韓国・中国・東南アジア等)で販売・配信される際の二次使用料。Netflixの世界配信に乗ることで、日本のドラマやアニメが世界中で視聴されるケースが増えており、海外二次使用料の重要性が増している。
楽曲の二次使用
映画・ドラマで使用された楽曲が、他の作品で再利用される際の使用料。JASRACなど著作権管理団体が徴収・分配する仕組みが整備されている。CMで使用された楽曲がドラマでも使われる、過去の名曲がリメイク作品で使われる、などの場合に発生する。
レジデュアルとの違い
制度の体系性
アメリカのレジデュアルは、脚本家組合(WGA)、俳優組合(SAG-AFTRA)、監督組合(DGA)が団体交渉で獲得した体系的な権利である。視聴ごと・配信ごとに自動的に支払われる仕組みが確立されており、計算式も明確に規定されている。
日本の二次使用料は、組合の交渉力が弱いため契約ごとに個別合意される。レジデュアルのような自動支払いシステムは限定的で、契約書に二次使用料の規定が明記されていないケースも珍しくない。
金額水準
アメリカのレジデュアルは、人気作品の出演者に長期的・継続的に巨額の収入をもたらす。『フレンズ』のジェニファー・アニストン、リサ・クドロー、コートニー・コックス、マット・ルブラン、マシュー・ペリー、デヴィッド・シュワイマーの6人はそれぞれ毎年約2,000万ドルのレジデュアルを受け取っているとされる。
日本の二次使用料は、人気作品でも個人への分配が極めて低額にとどまるケースが多い。日本のテレビドラマで主演を務めた俳優が、その後の再放送・配信から大きな継続収入を得る事例は稀である。
視聴データの透明性
レジデュアルの問題点として、配信プラットフォームの視聴データが非公開であることが挙げられる。2023年のWGA・SAG-AFTRAストライキでは、視聴データ開示と視聴実績連動のボーナス制度が主要要求となり、妥結により「視聴ベース・ボーナス」が新設された。
日本では二次使用料がそもそも体系化されていないため、視聴データ透明化への要求も組織的に進んでいない。
二次使用料制度の主体
日本俳優連合(日俳連)
俳優の権利を守る団体で、テレビ・映画・パッケージなどの二次使用料の交渉・規定整備を行っている。再放送時の出演者への支払い、海外放送時の特別料金、CM2次利用などの規定を放送局・配給会社と協定している。
ただし、アメリカのSAG-AFTRAと比較すると交渉力が弱く、業界全体への影響力は限定的である。映画俳優の業界横断的な組合化は日本では十分に進んでおらず、これが二次使用料制度の脆弱性につながっている。
日本音楽著作権協会(JASRAC)
音楽の著作権を一括管理し、テレビ・ラジオ・カラオケ・配信などでの楽曲使用料を徴収・分配する団体。映画・ドラマで使用された楽曲の二次使用料も同団体が処理する。
日本シナリオ作家協会・日本脚本家連盟
脚本家の権利を守る団体。テレビ番組の再放送時の脚本家への支払いなどを規定している。
私的録音録画補償金制度
DVDレコーダー、Blu-rayレコーダー、ブランクメディアなどへの課金により、複製による著作権者の損失を補填する制度。徐々に対象機器が縮小しており、制度全体の存続が議論されている。
製作委員会方式と二次使用料の関係
日本の映画・ドラマは製作委員会方式で制作されることが多い。各出資者が各ウィンドウの権利を保有する構造のため、二次使用料の分配も委員会内の出資比率で行われる。
この構造は、出資者(テレビ局・出版社・広告代理店等)にとっては合理的だが、実際の制作に携わったクリエイター(俳優・脚本家・監督・アニメーター)への分配が薄くなる問題を内包している。2024年に話題となった『セクシー田中さん』の原作者の悲劇は、製作委員会方式の構造的問題と二次使用料制度の不備が浮き彫りになった事例だった。
配信時代の新たな課題
バイアウト契約の普及
NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信プラットフォームは、「バイアウト契約」(一括固定報酬)を中心とする報酬体系を採用している。クリエイターは事前に固定額を受け取る代わりに、作品が大ヒットしても追加の二次使用料は発生しない構造である。
これはハリウッド・アカウンティングの問題を回避する一方で、作品の長期的価値からクリエイターが利益を得られない新たな問題を生む。
視聴データ開示の要求
配信プラットフォームの視聴データが非公開のため、二次使用料の公正な算定が困難な状況が続いている。2023年のハリウッドストライキで一定の改善があったが、日本市場での視聴データ透明化はまだ道半ばである。
AI生成コンテンツとの関係
生成AI技術の発展により、俳優の容姿・声を複製する技術が広がっている。AI生成コンテンツが既存作品を「学習」して制作される場合、元の作品のクリエイターに二次使用料が発生すべきかという新たな論点が浮上している。
今後の展望
二次使用料制度は、配信時代の到来とAI技術の発展により、根本的な見直しが必要な段階に入っている。日本では以下の課題が議論されている:
- 業界横断的な組合化: アメリカのWGA・SAG-AFTRAレベルの交渉力を持つ団体の形成
- 視聴データ透明化: 配信プラットフォームに対する視聴データ開示の制度化
- クリエイター個人への分配強化: 製作委員会方式の中での、実作業者への配分比率の見直し
- AI使用と二次使用料: 生成AIによる再利用に対する権利処理の整備
映像作品の長期的価値からクリエイターが公正な対価を受け取れる仕組みづくりが、業界の持続可能性を左右する課題となっている。
よくある質問
二次使用料とは何ですか? expand_more
映画やテレビ番組が当初の用途(テレビ放送、劇場公開)を超えて再利用される際に発生する追加報酬の総称です。具体的には再放送、配信、DVD/Blu-rayパッケージ販売、海外販売などでの利用に対して、出演者・脚本家・原作者・音楽著作権者などに支払われる「再利用料」「再使用料」を指します。
二次使用料とレジデュアルの違いは? expand_more
機能は似ていますが、制度の体系性が大きく異なります。レジデュアルはアメリカで脚本家組合(WGA)・俳優組合(SAG-AFTRA)・監督組合(DGA)が団体交渉で獲得した体系的な権利で、視聴ごと・配信ごとに自動的に支払われる仕組みが確立されています。日本の二次使用料は組合の交渉力が弱いため、契約ごとに個別合意され、レジデュアルのような自動支払いシステムは限定的です。
二次使用料はどんなケースで発生しますか? expand_more
主な5つです。1) テレビ番組の再放送、2) 配信プラットフォーム(Netflix・Amazon Prime Video等)でのストリーミング、3) DVD/Blu-ray等パッケージ商品の販売・レンタル、4) 海外への販売・配信、5) 楽曲・効果音の他作品での使用。それぞれに対して関係者への支払いが発生します。
なぜ日本の二次使用料は問題視されるのですか? expand_more
主に3つの理由があります。1) アメリカのレジデュアルと比較して支払い水準が極めて低い、2) 契約書に明記されていないか、極めて低額に固定されているケースが多い、3) 視聴データやライセンス収益が透明化されておらず、関係者が自作の利用実態を把握できない。日本俳優連合などが改善を求めて交渉しているが、米国の組合ほどの交渉力には至っていません。
二次使用料の代表的な制度は? expand_more
日本における主要な制度として「日本俳優連合(日俳連)の再使用料規定」(テレビ再放送・パッケージ販売等)、「日本音楽著作権協会(JASRAC)の二次使用料分配」(音楽の放送・配信での使用)、「私的録音録画補償金制度」(DVD/Blu-rayレコーダー等への課金)などがあります。ただしいずれも対象範囲・金額がアメリカと比較して限定的です。