配信・興行 Day-and-Date Release

デイアンドデート

でいあんどでーと

映画を劇場と配信プラットフォームで同日に公開するリリース戦略。コロナ禍で一時的に普及したが、映画館チェーンとの対立を招き、その後は縮小傾向にある。

デイアンドデートとは

デイアンドデート・リリース(Day-and-Date Release)とは、映画を劇場公開と同時に配信プラットフォームやデジタルレンタルでも視聴可能にするリリース戦略である。「Day and Date」は「同日同時」を意味し、従来のウィンドウ戦略で設けられていた劇場公開から配信までの独占期間を撤廃するアプローチである。

この手法は2020年のコロナ禍で急速に広まったが、映画館業界との摩擦やクリエイターからの反発もあり、パンデミック後は戦略の見直しが進んでいる。

コロナ禍で加速した背景

パンデミック以前

デイアンドデートの概念自体はコロナ以前から存在していたが、インディペンデント映画や小規模配給の一部に限られていた。大手スタジオにとって劇場公開は最大の収入源であり、劇場の独占期間を守ることが業界の共通認識だった。

2020〜2021年の転換

映画館が世界的に閉鎖されたことで、スタジオは完成済みの大作映画の公開方法を根本的に再考せざるを得なくなった。各スタジオはそれぞれ異なるアプローチを取った。

各スタジオの戦略

ワーナー・ブラザース — HBO Max同日配信

最も大胆な施策を打ち出したのがワーナー・ブラザースだった。2021年の全公開作品を劇場とHBO Maxで同日配信すると発表し、業界に衝撃を与えた。対象には『マトリックス レザレクションズ』『デューン 砂の惑星』『ゴジラvsコング』などの大作が含まれていた。

この決定に対し、映画館チェーンは猛反発した。また、劇場公開を前提に契約していた監督・俳優からも抗議の声が上がった。『TENET テネット』の監督クリストファー・ノーランは、長年のパートナーだったワーナーとの関係を絶ち、次回作『オッペンハイマー』をユニバーサルで制作することを決めた。

ディズニー — ディズニープレミアアクセス

ディズニーは一部の作品をDisney+で追加料金(約30ドル)を支払うことで視聴可能にする「プレミアアクセス」方式を採用した。『ムーラン』(2020年)や『ブラック・ウィドウ』(2021年)がこの方式で公開された。

『ブラック・ウィドウ』をめぐっては、主演のスカーレット・ヨハンソンがディズニーを提訴した。劇場興行収入に連動するボーナス契約を結んでいたにもかかわらず、同日配信によって劇場収入が減少したとして、契約違反を主張した。この訴訟は和解で決着したが、デイアンドデートが俳優の報酬に与える影響を浮き彫りにした。

ユニバーサル — 短縮ウィンドウ

ユニバーサルは完全なデイアンドデートではなく、劇場独占期間を従来の約90日から17日に短縮する合意をAMCシアターズと結んだ。これは劇場側との妥協点を探るアプローチであり、のちに業界標準となる45日間の劇場独占期間の先駆けとなった。

パンデミック後の揺り戻し

2022年以降、デイアンドデート戦略は大幅に縮小した。その理由は複数ある。

劇場興行の回復

『トップガン マーヴェリック』(2022年)や『バービー』(2023年)、『オッペンハイマー』(2023年)の大ヒットにより、劇場公開の商業的価値が改めて証明された。これらの作品はいずれも劇場独占期間を設けており、その期間が話題性と興行成績に貢献したと分析されている。

配信加入者数への効果の限界

スタジオ各社は、デイアンドデートが配信サービスの加入者獲得にどれだけ貢献したかを検証した結果、大作映画1本のためだけに加入するユーザーは限定的であることが判明した。劇場での興行収入を犠牲にしてまで同日配信する合理性は薄いという結論に至った。

日本市場での状況

日本では、デイアンドデートは一般的な公開方式としては定着していない。その背景には、日本特有の映画興行文化がある。

日本の映画館はIMAX、4DX、ScreenXなどのプレミアムフォーマットの導入が進んでおり、「映画は映画館で観る」という価値観が根強い。また、製作委員会方式では各出資者が劇場興行収入の分配を前提に参加しているため、同日配信はステークホルダー間の合意形成が極めて困難である。

一方で、アニメ映画の一部では劇場公開後の早期配信が行われるケースが増えており、ウィンドウの圧縮は日本市場にも徐々に波及している。

デイアンドデートの今後

完全なデイアンドデート戦略は後退したが、「劇場独占期間の短縮」というトレンドは不可逆的に進んでいる。現在の業界標準は約45日間の劇場独占期間であり、かつての90〜120日間と比べると大幅に短い。

また、作品の規模によって戦略を使い分けるアプローチが主流になりつつある。大作映画は劇場独占で公開し、中小規模の作品は早期に配信に移行するという二段構えの戦略は、スタジオと映画館双方にとっての落としどころとなっている。

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