ブロックブッキング
ぶろっくぶっきんぐ
ブロックブッキングとは
ブロックブッキング(Block Booking)は、映画配給会社が複数の作品を「セット」として劇場に提供し、人気作品を上映する条件として低人気作品も同時に契約させる商慣行を指す。「ブロック(塊)」を「ブッキング(予約)」させるという意味で、劇場が作品を個別選択する自由を制限する商法である。
20世紀前半のハリウッド黄金期に大手スタジオが積極的に活用した手法で、1948年の米連邦最高裁判所「パラマウント判決」によって独占禁止法違反と認定され、原則禁止となった。ただし変形した形での類似慣行は現代も存在する。
ブロックブッキングの歴史
ハリウッド黄金期の標準慣行
1920〜1940年代のハリウッド黄金期、大手スタジオ(パラマウント、MGM、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザース、RKO)は「製作・配給・劇場経営」を一体支配する垂直統合構造を構築していた。スタジオが大量の映画を生産し、自社所有の劇場で上映する一方、独立系劇場には自社作品をブロック単位で押しつけていた。
ブラインドブッキング
ブロックブッキングと併用された商慣行に「ブラインドブッキング(Blind Booking)」がある。これは劇場が映画を観る前に契約を強制される仕組みで、配給会社が「これから作る5本の映画をまとめて買う契約をしてください」と要求するもの。劇場は実際の作品の質を知らないまま契約しなければならなかった。
両者を組み合わせることで、配給会社は自社作品の上映を「強制的に確保」でき、観客の選択肢に依らず収益を上げられる構造を作り出していた。
パラマウント判決(1948年)
判決の内容
1948年5月3日、米連邦最高裁判所はパラマウントを筆頭とする大手スタジオによる垂直統合構造を独占禁止法違反と認定した(United States v. Paramount Pictures, Inc., 334 U.S. 131)。判決は以下の3つの主要事項を含んでいた:
- スタジオによる劇場保有の禁止: 大手スタジオは保有する劇場チェーンを売却する命令を受けた
- ブロックブッキングの禁止: 複数作品を強制的にセット販売する慣行を禁止
- ブラインドブッキングの禁止: 観ていない作品の事前契約強制を禁止
業界構造への影響
この判決により、ハリウッドの「スタジオシステム(Studio System)」が崩壊の端緒についた。スタジオは自社劇場を売却することで安定した上映ルートを失い、独立系プロデューサー・俳優・監督の交渉力が大幅に増した。1950年代のフィルム・ノワール、ニューハリウッド世代の台頭などは、パラマウント判決後の業界構造変化の中で生まれたものである。
パラマウント判決の終焉(2020年)
判決から70年以上経った2020年8月、米司法省は「現代の映画業界では類似の独占行為のリスクは消滅した」として、パラマウント判決の制約を解除する申し立てを行い、認められた。これによりスタジオが劇場チェーンを再び保有できる可能性が法的には開かれたが、現実には大規模な再統合は起きていない。
現代におけるブロックブッキング的慣行
完全なブロックブッキングは禁止されているが、類似する商慣行は形を変えて存在している。
マスト・プレイ条項
特定の超大作映画を上映する条件として、同じスタジオの他作品も上映する暗黙の合意。たとえばマーベル映画の最新作を確保するために、同じディズニー配給の他作品も上映する慣行がこれにあたる。
ボリュームディスカウント契約
複数作品をまとめて契約することで上映条件を有利にする仕組み。劇場が「年間契約」「シーズン契約」で複数の作品を一括契約し、その代わりに分配比率や上映期間で優遇を受ける。
スクリーン専有率
大作映画の公開時、配給会社が「○月○日から○週間、最低○スクリーン以上で上映」を契約条件とする。これにより事実上、競合作品の上映が制限される効果が生まれる。
日本のブロックブッキング事情
メジャー系配給会社と系列劇場
日本では「ブロックブッキング」という用語自体はあまり使われないが、東宝・東映・松竹といったメジャー系配給会社と系列劇場(東宝の場合TOHOシネマズ)の関係に類似の構造がある。系列劇場は親会社配給の作品を優先的に上映する義務に近い慣行があり、独立系作品の上映機会が制限される要因の一つとなっている。
製作委員会方式との連動
製作委員会方式で制作された映画は、出資者であるテレビ局や配給会社の系列劇場での上映が前提となることが多い。これにより、製作委員会非参加の作品が大規模上映の機会を得るのは構造的に難しい。
ミニシアターへの影響
シネコン中心の興行構造により、独立系映画や外国映画はミニシアター・名画座での上映に集中する。ブロックブッキング的な慣行が直接的に違法とされる仕組みは日本にないため、商習慣として続いている部分が大きい。
反トラスト法と映画業界
米国の継続的な監視
パラマウント判決は1948年の判決だが、その後も米司法省・連邦取引委員会(FTC)は映画業界の独占的行為を継続的に監視している。2010年代後半のディズニーによるフォックス買収(2019年完了)の際にも、独占禁止法上の懸念が議論された。
欧州での規制
欧州連合(EU)も映画配給の独占的慣行に厳しく、各国の競争法と連動して大手スタジオの行為を監視している。2010年代に欧州委員会が「ジオブロッキング」(地域ごとのコンテンツ配信制限)規制を強化したのは、配信時代の独占的行為を抑制する試みである。
日本の独占禁止法
日本の独占禁止法(独禁法、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)も、不公正な取引方法の一つとして「抱き合わせ販売」を禁止している。これはブロックブッキングと機能的に類似するが、映画業界に対する独禁法の適用は限定的で、自主規制に委ねられている部分が大きい。
配信時代のブロックブッキング論
バンドル販売
NetflixやDisney+などの配信プラットフォームは、加入すれば全カタログにアクセスできる「バンドル販売」を採用している。これは消費者にとってブロックブッキングの逆構造で、「個別作品を選んで買う」のではなく「すべてに月額でアクセスする」モデルとなる。
コンテンツ独占とプラットフォーム支配
配信プラットフォーム間でのコンテンツ独占(『ストレンジャー・シングス』はNetflix、『ザ・マンダロリアン』はDisney+のみ)は、別の形での市場分割と見ることもできる。視聴者は複数プラットフォームに加入するか、特定作品を諦めるかを迫られる。
「サブスク疲れ」と寡占化
配信プラットフォームの乱立により、消費者が複数サブスクの月額負担に疲弊する「サブスク疲れ」が顕在化している。この状況下で、大手プラットフォーム間の合併・買収が進行しており、新たな形での寡占化が懸念されている。
今後の展望
ブロックブッキングは1948年に法的に禁止されたが、業界構造の根底に「製作者・配給者・上映者の関係性」という普遍的な問題を残している。配信時代に入り、その問題は新たな形で表面化している:
- 配信プラットフォームの寡占化: 大手プラットフォーム間の合併・買収による市場集中
- コンテンツ独占の影響: 視聴者の選択肢の制限とプラットフォーム間の競争関係
- 作品の発見性: アルゴリズム推薦による「観る作品の選択肢狭窄」
20世紀のブロックブッキングが「劇場の選択肢を制限する」問題だったのに対し、21世紀の課題は「視聴者の選択肢と作品の発見性をどう確保するか」に移っている。
よくある質問
ブロックブッキングとは何ですか? expand_more
映画配給会社が複数の作品をまとめて1セットの契約として劇場に提供し、人気作品を上映する条件として低人気作品も同時に契約させる商慣行です。劇場は人気作品を確保するために低人気作品も引き受ける必要があり、配給会社は売れにくい作品にも上映機会を確保できる仕組みです。
なぜブロックブッキングが問題視されたのですか? expand_more
主に2つの理由です。1) 劇場が作品を個別選択する自由を奪い、観客の選択肢を狭める、2) 配給会社が市場支配力を行使する独占的慣行に該当する。1948年の米連邦最高裁判所「パラマウント判決」でハリウッド大手スタジオによるブロックブッキングが独占禁止法違反と判定され、ブロックブッキング自体が原則禁止となりました。
1948年パラマウント判決とは何ですか? expand_more
1948年5月3日の米連邦最高裁判決で、ハリウッド大手スタジオ(パラマウント、20世紀フォックス、MGM、ワーナー、RKO等)が「製作・配給・劇場経営」を一体支配する垂直統合構造を独占禁止法違反と認定しました。スタジオの劇場保有を強制的に売却させ、ブロックブッキングも禁止された画期的判決です。
現代のブロックブッキング的な慣行は? expand_more
完全なブロックブッキングは禁止されていますが、「マスト・プレイ条項」(特定の超大作を上映する条件として、同じスタジオの他作品も上映する暗黙の合意)や「ボリュームディスカウント契約」(複数作品をまとめて契約することで割引を受ける)など、類似する商慣行は形を変えて存在しています。
日本のブロックブッキング事情は? expand_more
日本では「ブロックブッキング」という用語自体はあまり使われませんが、東宝・東映・松竹といったメジャー系配給会社と系列劇場の関係に類似の構造があります。特定の大作の上映と引き換えに、他の作品の上映を引き受ける暗黙の慣行が存在し、独立系映画やミニシアター系作品の上映機会を圧迫する要因の一つとされています。